2022年8月1日月曜日

東京・あきる野市の市政混乱 ~問われる地方自治の健全さ

   《東京都心から40~50㎞圏》比較的緩やかな秋川丘陵、草花丘陵に囲まれた平坦部と奥多摩の山々に連なる山間部からなる人口約8万人の市。秋川渓谷など自然を売りにするそのあきる野市で、極めて不自然な政治現象が起きている。

  2度議会で不信任議決を受け失職した市長が、新市長を決める次の選挙に再立候補する動きという。前代未聞のこの動きをどうみたらよいか。市民からは、この議会と長のドロ試合のような権力闘争に政治不信と税金の無駄使いとの声が高まている。これをどうみるか。少なくもこの約2ヶ月の間、何のために大きな税金と時間をかけて議員選挙までやり、長の失職を決めたのか。日本の2元代表制の仕組みの基本が問われている。

  事態の経緯はこうだ。あきる野市で市議会は6月、介護老人福祉施設の誘致をめぐる独断専行の村木英幸市長(65)の対応に「議会軽視で民主主義に反する」などとして不信任決議案を提出。議員21人中20人の賛成で議決した。市長は10以内に辞職か議会解散か選択できる地方自治法をもとに、議会の解散を決めている。それを受け、7月24日に市議選(定数21)が行われ、不信任決議に賛成した18人が当選。その後7月28日の市議会で村木市長に対する不信任決議案を再び提出。議長を含む21人で採決し19人が賛成、可決された。同市長は地方自治法第178条の規定により市長職を失職した。

    日本の地方自治は憲法第93条の規定に従い、自治体の代表機関は長と議会であり、両者は別個に住民の直接選挙で選ばれると定める。長と議会は、代表機関として対等な関係にありながら、相手の「代表性」の特徴を認め合い、それを生かし、あたかも車の両輪のように自治体の意思決定を行う共同責任を負う。議会は議決機関、首長は執行機関と役割の相違はあるが、ともに住民全体の代表として自治体の意思を公式に確定できる権限を与えている。

 ただ、首長、議会の両機関は国の議院内閣制のように執行機関に当たる内閣を支える与党勢力を議会に形成することは期待してはおらず、むしろ議会は長に対する民意の代表機関として「競い合う関係」を求め、全体として監視、批判、修正、代案といった野党的な機能を果たすことを期待されている、と理解されている。

 こうした仕組みの中で、この事案のように両機関が対立し、事態の打開が見えない場合、住民自治の代表機関である議会に長の不信任議決という伝家の宝刀を与えている。ただ、それは極めて慎重な手続きを要求し、上述のようにまず3分の議決を、もし議会が解散された場合、その後も不信任議決を求めるなら、民意を受けた議会の意思を尊重する意味で過半数で執行機関である長の解任を決めることができるとしているのだ。

 この趣旨は、慎重な手続きの上に2度不信任を議決された長は、「長として失格」という烙印を住民に代わって議会から押されたことを意味する。

 これを不服として、自己が失職したことで行われる選挙(補欠選挙ではないが、趣旨は近いもの)に立候補できるかどうか。地方自治法はこうした事態が生ずることを想定しておらず規定はないが、類似の公職でいうと、公選法第82条の2に「国会議員を辞職や失職により行われる補欠選挙の候補者になれない」 と2000年5月以降は規定されている。秘書の不祥事で失職したので、その補選に出てみそぎを受けようという議員が後を絶たなかった事態を受けての公選法の措置。

  政治ポストを私物化しようという動きを封したものだが、地方の首長にそうした者が出てくるという想定はない中で規定はないだけ。長に解散という解任をされた議員が新たに選挙で選ばれてきた最新の民意で、再び長の解任を決定したら、それは市長選で民意を確認するまでもなく、代議制民主主義の原理に沿って、潔く従う。それが公選首長の態度ではなかろうか。法的に禁止規定せずとも、政治的・道義的責任をとって判断するはず、としたのが地方自治法の規定ではなかろうか。

  もとより、議会が御しやすい者を長に据え 、議会主導で市政運営をしようという思惑があるなら、それも間違い。多くの職員を使い執行権を行使するにふさわしい人材を長に選び、双方、是々非々、何が民意かを競い合う関係を保つ市政運営が求められている。東京にあって、あきる野市という合併市の新たな自治力が試されている。

#長の不信任議決 #長の解散権