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2022年10月15日土曜日

老いる東京―”インフラ廃止”!反対のジレンマ、市長辞職へ


  東京都のほぼ真ん中。人口12万都市・小金井市で市立保育園の一部廃園をめぐり、市長と議会が対立。自らの意志を通そうと市長が専決処分で廃園条例を決め執行へ。急ぎすぎ、撤回を求め市議会は不承認に。結果、市政の混乱を招いたとし10月14日西岡真一郎市長(53)が辞任した。

 経緯はこうだ。市は昨年7月、市立保育園5園のうち3園を廃園する方針を策定。うち2園を先行して廃園する条例改正案をこの9月議会に提出したが継続審議となり、急ぐ市長は自らの権限で専決処分を発動し条例改正へ。市議会の議決を得ない専決処分とした条例改正につき、小金井市議会は10月7日の本会議で20対2の反対多数で専決処分を不承認にした。これを不服として西岡市長はこの日夜、退職届を市議会に提出、市議会は同意した。その顛末を受け、市長は昨日辞職した。継続審議中の条例案を専決処分で改正し、不承認とされて職を辞するという異例の展開に。この事案、これは一体何なのか。後継を選ぶ市長選は11月27日に行われる模様だが、辞職した市長は出直し選としての再立候補の意向はないという。

 この話。どこか近いものが東京の郊外あきる野市で起きたばかり。この6月、あきる野市議会が介護老人福祉施設の誘致をめぐる独断専行の市長(65)の対応に「議会軽視で民主主義に反する」などとして不信任決議案を提出。議員21人中20人の賛成で議決。市長は失職へ。のち市長選で再立候補した同市長は落選、当時の市議会議長市長に当選したばかりである。この東京郊外都市で起きている政治混乱は何なのか。何かの始まりか?

 今回の小金井市の事案、問題は2つだ。1つは子供数の減少で過剰施設が目立つ中、老いる保育園から経過措置を講じながら廃園しようとするインフラ行政は、正しいかどうかだ。大都市も少子高齢化は待ったなし。保育園、幼稚園に限らず小中学校、集会所、道路、橋、上下水など生活インフラはかつての人口増時代に整備したモノから過剰状況に陥る。耐用年数50年で更新か廃止かの決断を連続迫られる市政が今後続く状態に。他方で介護施設や病院、近場公園などは足りず、供給量を急ぎ増やさなければならない。しかし、住民税、固定資産税を税源とする基礎自治体は税収は下降線で、財源不足が慢性化する。

 保育園が近くにあった方がよいし、共働きが一般化している都市近郊で廃園と言われると基本的に反対する。それは市民感情として理解できる。ただ、維持できるかどうかだ。生活インフラは自己負担がない限り、造るのは賛成、だが廃棄は反対!となりがち。これからの自治体経営のむずかしさは、右肩上がり時代の体内時計しか持たない一般市民に「止める」「廃止する」を説得できるかどうかだ。地方ではローカル鉄道線廃止問題が大きな話題になているが、相当の負担をしてでも残す意思を持つか問われる。 

 要は、本事案は事の始まりだが、老いるインフラの扱いを市民と意識を共有し”扱い方”をどう決めていくかという問題である。

 そこで2つ目の、小金井市長の専決処分はどうかだ。地方自治法で専決処分は災害など緊急避難的に市議会などを開く間がない場合、首長が議会に代わり条例制定なり補正予算なり条例改正なりを行う権限を認めている。その点、小金井市長の専決処分はあり得る話。だが、「廃園」が緊急避難を要するほどの緊急性がある事案かどうか。聞くところによると、10月から来春の募集計画をつくるので廃園を決めないと間に合わない、という理由を述べているが、実務担当の職員の声ならともかく、トップである自治体経営者である市長の理由づけとしては余りにもお粗末。財政上の理由も含め、もっと丁寧に市民を説得し、議会議員を説得する努力が要る。専決処分は伝家の宝刀ではない!

 ただ、議会の体質も問われる。首長と議会は2元代表制の下では共同経営者なのだ。首長は議会の決定に基づき執行実務を担当する立場。失敗の責任は全て執行機関である首長の責任であるかのように報ずるマスコミなどの論調があるが、それは違う。基本的な決定事項の責任は議会が負う。果たして今回、小金井市議会は長期財政見通しまで含め、自治体経営の視点も交えて市民の理解を得るような努力をしているのか。「反対!」の先頭に立てば再選に有利といった目先の時期利益を優先していないかどうか。

 いずれ市長選では、単なる賛成、反対論争ではなく、12万都市の自立経営が可能かどうか、他のインフラ更新まで含め幅広く問い直すべきだ。災い転じて福となす!を期待したい。この件は、大都市のみならず、これから10年各自治体が直面する問題だ。まず来春の統一地方選でそれが問われる。小金井市を他山の石として各地で生かすべきだ。

#老いるインフラ #大都市郊外の税収減 #自治体経営 #議会人の経営感覚



2022年5月26日木曜日

首都直下地震の想定!老いるインフラをどう織り込む

東京都が先日、首都直下地震の新たな被害想定を発表した。発生場所を4つに分けて想定しているが、被害が最大の「都心南部直下地震」で23区の約6割が震度6以上の揺れ、死者数は最大6148人と。10年前の想定より死者数、建物全壊、全焼棟数は36%減とした。この10年で建物の耐震化や木造密集市街地の不燃化対策が進んだからという。それでも直接的な経済被害は21兆5640億円。帰宅困難者は最大452万人に上る。

2012年の想定より、3割近く被害を抑えた想定が目に付くが、土木工学などハード部門の専門家が多く集まっての想定のようだが、帰宅困難者にせよ、路上に飛び出した高齢者にせよ、東京全体の高齢者数はうなぎ上りに増えており、また道路、橋、トンネル、地下街などハードインフラの老いも急ピッチですすむ。この分野は50年前のオリンピックの際、急いで一斉に整備したモノが多いだけに耐用年数50年を過ぎてきている。

こうした「老いる東京」リスクをどこまで織り込んだ被害想定なのか、その点は心もとない。まして「想定外の事態だった」という行政の常套句が出るようでは困る。

私は、大都市が老いる経験をしたことのない日本で大地震が勃発した場合、情報網の混乱、人々の動揺は想定以上に大きなものになり、また老いるインフラも想定以上に脆い姿を表すのではないか、と危惧している。そして大多数の中枢機能を一極集中しているここまでのやり方がいかに間違っていたかを露わにすることになるのではないか、とも思う。

東京は1964年の東京五輪前後、世界に戦後復興を誇ろうと一斉に道路や橋、トンネル、上下水、地下鉄、地下道、学校などを整備し、新幹線、高速道をつくった。以後、高度成長の波に乗り人口集中、モータリゼーションの受け皿としてさらに郊外まで広がっていった。戦後のベビーブームにも似ているが、これが一斉に寿命を迎えるという訳だ。

勿論、耐用年数50年で機械的に計算したよう一斉に橋が落ちるとか、道路が陥没するという話ではない。しかし以下に例示するように耐用年数を迎えたインフラは脆い。

例えば大停電。1例だが201610月12日午後発生した停電は、11特別区約58万6000軒を巻き込む大規模な停電を引き起こした。中央官庁や住宅街で突然照明が落ち、信号機やエレベーターが停止し、交通機能は乱れ、一部の駅では人があふれた。原因は東京電力の老朽化した施設のメンテナンス不足。35年前に敷設した送電用ケーブルが何らかの原因で火花を起こし引火したのが要因という。その日午後3時半、池袋駅東口近くの交差点で信号機が一斉に消え、都内の約200カ所で信号機が消えた。

西武新宿線などが一時運転を見合わせ、池袋駅では帰宅ラッシュと重なり激しい混雑に。構内への入場制限が行われ、約9万1000人が影響を受けた。千代田区霞が関の裁判所では、一部法廷で照明の半分が消え審理がストップした。豊島区の病院では電子カルテが使えなくなり処方箋が出せず、手術は自家発電に切り替えて続行するという緊急事態になった。

たった1つの送電ケーブルの劣化がこうした事態を引き起こす。もし大地震で東京に大停電が起こるなら、都市活動を支える中枢機能は麻痺し、日本全体が大混乱に陥る。

身近な歩道橋はどうか。東京都内に600の横断歩道橋がある。全国には118732018年末)。うちすぐ取り換えの必要なものは東京で15%、全国で24%。東京では既にこの20年間に100の歩道橋が撤去され消えているが、しかし撤去すれば困るところも少なくない。歩道橋の大部分は60年代後半の高度成長期に一斉に整備された。クルマが急増し多発する交通事故から人命を守るという理由から多くの交差点に歩道橋がついた。

だが、それが次々に老化し、さび付いたり、途中に穴が空いたり、小学生が渡っても怖がるものが増加。お年寄りは渡ること自体回避しようと、道橋を前でじっと立ち竦む

マグニチュード7クラスの地震だと主要道路の歩道橋は次々落ちる。道路に横たわる鉄梯子が道をふさぎ消防車も救急車も使えない。これは防災上の大問題。今や危険インフラに変容。東京は先進諸国に例をみないほど歩道橋が多い。都市景観を壊し、強い地震などで崩落し救急活動のバリアになる。生活者優先、ソフト重視の温かみのある都市づくりを目指す時代からすると、もはや古い遺物ではないか。

当面は修繕も必要だが、これからは「歩道橋ゼロ社会」をめざす時代ではないか。震災対策、防災上も景観上もヒトに優しい街づくりの面においてもそうだ。

首都高はどうか。開通から50年以上経つ路線が1割以上、4049年が約4分の13039年が2割と古い路線が総延長の5割強を占める。経過年数40 年以上のものは、過酷な使用状況もあって、損傷が激しく年々維持管理費も膨らむ一方だ。

巨大都市の地下に様々な配管が網の目のように張めぐらされている。その1つが下水管。東京23区では法定耐用年数を超えた老朽管渠が全延長の13%、約2,000km に及ぶ。下水道管渠の破損が原因と思われる道路陥没も毎年1,000 件以上発生している。あと10 年すると50年前の五輪前後に布設された管渠が毎年数百km 単位で耐用年数を迎える。

こうしてみると、首都直下地震の敵は「老いる東京」そのもののことが判る。逃げることのできない「老いるインフラ」「老いるヒト」。加えて止まることにない高層ビル、高層マンションの建設ラッシュ。これらを被害想定にどう組み込んでいくか他人事ではない。

#首都直下地震 #老いるインフラ #想定外の事態

 https://www.sasakinobuo.com/

    出典:プレジデントオンライン
 

 

2022年2月13日日曜日

”2025年問題”、もう1つある

もう1つの“2025年問題”

“団塊世代”全てが75歳を超え、医療、介護、年金等の社会保障が大変になることを「2025年問題」というが、忘れてならないはインフラも同時に老いるのが日本。

50年前、高度成長の波に乗り集中的に道路、港湾、橋、上下水道、歩道橋、学校、公共施設、地下鉄、鉄道、高速道など多くの都市インフラを整備した日本。それがこの先、一斉に寿命(耐用年数50年)を迎え、崩壊の危機に遭遇するという話。これが“もう1つの2025年”問題だ。

コロナ感染症で私たちの生活は大変だが、それとは別にもっと中長期に深刻な問題がこれだ。「老いるインフラ」問題。先日、「トンネル4割寿命/修繕費膨張年12兆円も」という記事が新聞紙上で躍った(日経新聞2月6日1面トップ)。道路橋なども6割超とか。

国土省によると、建設後50年以上経つ橋梁は20213月時点で全体の32%、トンネルは23%を占め、10年後にそれぞれ57%37%に増えるという。水道管も総延長の17.6%にあたる約13万キロが耐用年数を超えているそうだ。

これは更新にせよ、廃棄にせよ、膨大な費用と時間が要る。しかも人口急減の中、どの規模で更新するのが適正なのか、誰も分からない。そもそも財政難や技術系職員の不足でそう簡単に対応できていないという話も聞く。

これは全国的な問題だが、特に国土の0.6%という狭いエリアに国民の1割以上が集中する東京都は大問題だ。東京一極集中は日本の機関車だからと是認する見方もあるが、最大のアキレス腱は”老いるインフラ”事故で東京が破壊され、全国に被害が及ぶことだ。

台風など暴風雨で変電所が壊れ大停電になる。すると林立する超高層ビル・マンションに何日間も人が閉じ込められ死傷者まででる。デマ情報で街の人々は食料を買い漁る。道路は横倒しの電柱に塞がれ、鉄道、地下鉄は完全にストップ、経済活動も止まる。近いうちに首都直下地震が必ずくるという。すると、老いるインフラは想定以上に脆いのでは。 

政治は、もっと巨大都市の脆さを直視すべきではないか。

日本全体では集中豪雨や台風、地震など大災害時を除いて、これまで整備した橋やトンネル、下水道や学校、公共施設など都市インフラの補修に年間5兆円が必要という(国交省)。これに取り換え、更新まで加えると8兆円は下らない。すると、いま国の一般会計予算の公共事業費は約6兆8千億円だから、もう道路、橋などの新規事業に回すカネはなく、更新や補修で毎年の公共事業費が消えていく計算になる。

もとより、実際のインフラ整備・補修の多くは地方自治体の管轄下にある。今の中央地方関係は自治体の事業を国が3分の1補助する仕組みが多いが、こうしたインフラ更新・補修もそうだとすると、自治体は3分の2の自己負担を強いられる。3割自治という乏しい自主財源しかない各自治体にこれに耐えられるだけの体力があるか。そうは思えない。


 勿論、機械的に耐用年数
50年で一斉に橋が落ちるとか、道路が陥没するという話ではない。しかしコンクリート、木材、鉄を素材とするインフラだけに脆くなっている。ある日突然、それがわっと表に出る。最近増えている集中豪雨、台風、地震などで一気に崩落し、大参事につながる可能性すらある。これを想定外の事態とは言わない。“備えあれば憂いなし”国と地方はカネを掛けても計画的に更新し危機に備える必要がある。

人の命と暮らしを守る!それが政治の役割というが、どうもその動きが鈍い。

#老いるインフラ  https://sasanobu.blogspot.com/