2022年5月26日木曜日

首都直下地震の想定!老いるインフラをどう織り込む

東京都が先日、首都直下地震の新たな被害想定を発表した。発生場所を4つに分けて想定しているが、被害が最大の「都心南部直下地震」で23区の約6割が震度6以上の揺れ、死者数は最大6148人と。10年前の想定より死者数、建物全壊、全焼棟数は36%減とした。この10年で建物の耐震化や木造密集市街地の不燃化対策が進んだからという。それでも直接的な経済被害は21兆5640億円。帰宅困難者は最大452万人に上る。

2012年の想定より、3割近く被害を抑えた想定が目に付くが、土木工学などハード部門の専門家が多く集まっての想定のようだが、帰宅困難者にせよ、路上に飛び出した高齢者にせよ、東京全体の高齢者数はうなぎ上りに増えており、また道路、橋、トンネル、地下街などハードインフラの老いも急ピッチですすむ。この分野は50年前のオリンピックの際、急いで一斉に整備したモノが多いだけに耐用年数50年を過ぎてきている。

こうした「老いる東京」リスクをどこまで織り込んだ被害想定なのか、その点は心もとない。まして「想定外の事態だった」という行政の常套句が出るようでは困る。

私は、大都市が老いる経験をしたことのない日本で大地震が勃発した場合、情報網の混乱、人々の動揺は想定以上に大きなものになり、また老いるインフラも想定以上に脆い姿を表すのではないか、と危惧している。そして大多数の中枢機能を一極集中しているここまでのやり方がいかに間違っていたかを露わにすることになるのではないか、とも思う。

東京は1964年の東京五輪前後、世界に戦後復興を誇ろうと一斉に道路や橋、トンネル、上下水、地下鉄、地下道、学校などを整備し、新幹線、高速道をつくった。以後、高度成長の波に乗り人口集中、モータリゼーションの受け皿としてさらに郊外まで広がっていった。戦後のベビーブームにも似ているが、これが一斉に寿命を迎えるという訳だ。

勿論、耐用年数50年で機械的に計算したよう一斉に橋が落ちるとか、道路が陥没するという話ではない。しかし以下に例示するように耐用年数を迎えたインフラは脆い。

例えば大停電。1例だが201610月12日午後発生した停電は、11特別区約58万6000軒を巻き込む大規模な停電を引き起こした。中央官庁や住宅街で突然照明が落ち、信号機やエレベーターが停止し、交通機能は乱れ、一部の駅では人があふれた。原因は東京電力の老朽化した施設のメンテナンス不足。35年前に敷設した送電用ケーブルが何らかの原因で火花を起こし引火したのが要因という。その日午後3時半、池袋駅東口近くの交差点で信号機が一斉に消え、都内の約200カ所で信号機が消えた。

西武新宿線などが一時運転を見合わせ、池袋駅では帰宅ラッシュと重なり激しい混雑に。構内への入場制限が行われ、約9万1000人が影響を受けた。千代田区霞が関の裁判所では、一部法廷で照明の半分が消え審理がストップした。豊島区の病院では電子カルテが使えなくなり処方箋が出せず、手術は自家発電に切り替えて続行するという緊急事態になった。

たった1つの送電ケーブルの劣化がこうした事態を引き起こす。もし大地震で東京に大停電が起こるなら、都市活動を支える中枢機能は麻痺し、日本全体が大混乱に陥る。

身近な歩道橋はどうか。東京都内に600の横断歩道橋がある。全国には118732018年末)。うちすぐ取り換えの必要なものは東京で15%、全国で24%。東京では既にこの20年間に100の歩道橋が撤去され消えているが、しかし撤去すれば困るところも少なくない。歩道橋の大部分は60年代後半の高度成長期に一斉に整備された。クルマが急増し多発する交通事故から人命を守るという理由から多くの交差点に歩道橋がついた。

だが、それが次々に老化し、さび付いたり、途中に穴が空いたり、小学生が渡っても怖がるものが増加。お年寄りは渡ること自体回避しようと、道橋を前でじっと立ち竦む

マグニチュード7クラスの地震だと主要道路の歩道橋は次々落ちる。道路に横たわる鉄梯子が道をふさぎ消防車も救急車も使えない。これは防災上の大問題。今や危険インフラに変容。東京は先進諸国に例をみないほど歩道橋が多い。都市景観を壊し、強い地震などで崩落し救急活動のバリアになる。生活者優先、ソフト重視の温かみのある都市づくりを目指す時代からすると、もはや古い遺物ではないか。

当面は修繕も必要だが、これからは「歩道橋ゼロ社会」をめざす時代ではないか。震災対策、防災上も景観上もヒトに優しい街づくりの面においてもそうだ。

首都高はどうか。開通から50年以上経つ路線が1割以上、4049年が約4分の13039年が2割と古い路線が総延長の5割強を占める。経過年数40 年以上のものは、過酷な使用状況もあって、損傷が激しく年々維持管理費も膨らむ一方だ。

巨大都市の地下に様々な配管が網の目のように張めぐらされている。その1つが下水管。東京23区では法定耐用年数を超えた老朽管渠が全延長の13%、約2,000km に及ぶ。下水道管渠の破損が原因と思われる道路陥没も毎年1,000 件以上発生している。あと10 年すると50年前の五輪前後に布設された管渠が毎年数百km 単位で耐用年数を迎える。

こうしてみると、首都直下地震の敵は「老いる東京」そのもののことが判る。逃げることのできない「老いるインフラ」「老いるヒト」。加えて止まることにない高層ビル、高層マンションの建設ラッシュ。これらを被害想定にどう組み込んでいくか他人事ではない。

#首都直下地震 #老いるインフラ #想定外の事態

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    出典:プレジデントオンライン
 

 

2022年5月21日土曜日

各党は参議院の改革論を、ぜひ!

7月10日の参院選投票日に向け、各党の動き、候補者擁立が活発になって来ました。ただ、何議席とるか、数の話だけに終始し、「質」の話、つまり二院制における参議院の役割、改革すべき方向について全く話が出て来ません。マスメディアも含め論題の設定ができていない。

これでは一過性の政治ショーに終わる。それもそれほど面白みのあるショーではない。自民は自公で安定多数をと取れればそれでよし。他は政権構想など描く力もなく今より1つでも議席が増えればそれでよし。結局、1強多弱の構図は全く変わりそうのない政治ショー。日本はそうした選挙に大きな時間とカネをかけ政治空白をつくる余裕はないはず。

諸国をみると、上院にあたる第二院には幾つかの種類があることがわかります。①イギリスのように貴族制度をベースとして形成されたもの、②ドイツ、アメリカのように連邦制を基礎とするもの、③フランスのように地方自治体の代表としての側面を重視したものなどです。

日本の場合、衆参とも国民代表機関とされたうえで、選挙制度も似通っていて差別化はかなりあいまい。①でも②でも③でもない。あいまいなまま推移してきた。無いより益しか、あっても邪魔にならないか。政策論争的にも衆院選と衆院選の間の中間選挙といった性格以上の意義を見出すのが難しい。これではもったいない。

今の参院は衆院のカーボンコピーと揶揄されます。衆参院がねじれていた時はともかく、衆参とも自民党が過半数を占めると「同じことを2度やる」国会システムに堕してしまう。大きな国家の転換期、参議院の立ち位置、役割を見直す時です。

そこで1つ提案です。衆参両院の役割分担の見直しとして、例えば参院は「再考の府」「良識の府」として異なる観点から審議する。衆院は予算案や法案の中身と中心に議論するとして、参院は決算や行政監視に重点を置いて議論する、そのように議会運営を変えたらどうでしょう。

予算は政策を凝縮したものですが、政策のPDCAサイクルからいえば、P(形成)は衆院中心、C(チェック)とA(見直し)は参院中心といった分担はどうかという提案です。既に日本は右肩上がり社会は終焉しており、これからの右肩下がり社会は「あれもやります、これもやります」式の政治は通じない。「あれをやめます、これを見直します」式の政治への切り替えも必要となってきます。CとAの場面が重要度を増してくるということです。

日本の参議院改革の一つの方向はチェック、アクション、政策の見直しを役割とする。これまで日本は二院制をとりながら、参院は衆院のカーボンコピーと言われ、良識の府、再考の府と言われながら第2院としての独自性がなく、無用の長物、不要論すら言われてきました。この状態を脱するのは、衆院との役割を差別化することで立ち位置がハッキリした参議院に変える事ができる。これは憲法改正なくして、運用レベルでの改革で可能な方向ではないか。

第2は、地方の意見を国政に色濃く反映する院に変えていくことです。“地方のことは地方で決める”地方主権型の国づくりをめざす必要性は高まっているにも拘らず、国会でそのことを議論する場は殆どないのが実情です。それには、上院に当たる参議院を大きく変えたらどうでしょう。

そのヒントはドイツにあります。ドイツには一院制の連邦議会とは別に、副次的な立法審査機関として各州の代表で構成される「連邦参事院」がある。

国民の直接選挙で選ばれるのは下院に相当する連邦議会のみで、上院にあたる連邦参事院は各州政府によって任命された議員によって構成され、議席数は州の人口に応じて各州3~6名、その総数はたった68名からなっています。

基本的に下院に相当する連邦議会の権限が強いのですが、ただ、連邦議会を通過・成立した内政に関わる法案は必ず連邦参事院の審査に付されます。

この連邦参事院で修正・否決された場合には、この法案は連邦議会の再議に付され、その再議決によって確定する仕組みとなっています。つまり連邦参事院には、連邦議会の議決を拘束するまでの権能はないが、これをけん制する権能が賦与されている訳です。こうした考えを日本の参議院に入れたらどうでしょうか。

再考の府、地方の砦に加え、もう1つ、

第3として参議院を「長期展望」の府に変えたらどうかという提案です。

参議院は議員の任期を6年間に与えている。この長所を生かすことです。

衆議院は任期4年といますが、平均すると2.5年で解散がある。常在戦場と言われ安定性に欠け、中長期的な政策形成やその議論ができにくい。これに対し、上院に当たる参議院は任期も6年で解散もなく安定性に長けています。

イギリスの上院(貴族院)は長期展望の院の性格を有しており現実にそれを生かしている。残念ながら日本の参議院は議員のリクルートも業界団体、労働組合、衆議院落ち組、知事や引退者などに固定していることも影響してか、長期展望の論争を行う風土が欠落しています。ここを変えることです。

人口減少の進む日本は今後、統治機構の新たな仕組み、政府の役割見直しなど官僚組織を動かしていくための前提となる長期展望を行う必要性は高い。参議院は長期展望ができる、この長所を生かすことなくして参議院の存在価値はないということです。

例えば東京一極集中問題に参議院としてじっくり取り組む。これから首都東京は地震、豪雨、コロナ禍といった自然災害多発に加え、ヒトが老い、インフラが老い、経済が老いる、いわゆるトリプル「老いる東京」問題を抱えます。首都直下地震の襲来など厳しい局面も迎えます。

そこで参議院に東京のあり方長期展望委員会を常設し、これからの東京政策をじっくりと議論する。①東京の巨大化を続けるのか、②巨大化を否定する方向へ舵を切るかン宝庫転換の議論をする。明治以来、東京は日本の機関車であると巨大化を肯定する政策に終始してきましたが、大きく巨大化否定にかじを切る、そうした時代ではないか。これを地方の視野、世界の視野を入れじっくり政策に練り上げる、それが役割ではないか。

参院を再考の府、地方自治の砦、国家のあり方を展望する上院に変えたらどうか。この種の論争を激しくやる、だから私の当選を!と候補者は訴える。そうした選挙に変えよ。

#参議院選挙 #カーボンコピー #地方の砦 #再考の府

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