“緊急事態”保健所を狙い撃ちして問題は解決するか
コロナ禍と思ったら、まず保健所でPCR検査を!ここ3年間、各地の保健所は悲鳴を上げるほど忙しかった。それでも不十分とそのあり方を見直す動きだ。保健所は住民にとって身近な存在でなければならないが、緊急事態を理由に国の指揮命令下に置けないか、という話だ。コロナ対策は保健所を狙い撃ちして問題が解決するのだろうか。
一般に保健所が問題だといわれても、ふだん保健所や保健行政の仕組みを知らない人が意外に多いのでは。名称や建物はともかくそれがどんな機関でどんな仕事をしているか。
私たちは病気かなと思ったら病院に行くが、保健所に行くことはまずない。それもそうで、保健所は住民が病気にならないよう予防や健康づくりを進める「予防・防波堤」の行政機関だからだ。大切な任務だが、ある意味それ自体は地味な存在。そこで働く医師も外科、内科医と違い、医学部の公衆衛生学教室の出身者が多く日常患者との接点も少ない。
ところがコロナ禍の蔓延でにわかに存在感が増し、クローズアップされてきた。
日本の保健所は昭和13年に国(厚生省)の機関として49か所に設置され始まったが、戦後「ゆりかごから墓場まで」を担う機関として地方自治体に委ねられ、現在全国で535ある(2020年)。30年前まで850あったが行革で6割近くに減った。
だが、今回のコロナ禍対応で初期のPCR検査から患者の振り分け、患者数の把握・報告・公表まで保健所の業務とされた大多忙に。過去の経緯からして対応能力の下がり気味だった保健所の現場をコロナ禍が直撃した形で、現場は大騒動になった。
分かりにくいとされるのが設置者が5系統に分かれていること。大きくは都道府県の設置(約75%)と一定規模の市が設置(約25%)する2系統にだが、後者は政令市、中核市、政令で定める市、そして特別区と4種類に及ぶ。
もとより、後者は25%と比重は少ないように見えるが、今回のコロナ禍が集中した大都市圏、地方の県庁所在都市での保健所は圧倒的にここに含まれる。コロナ対策を県知事に委ねるより、政令市などこれを所管する首長に任せた方がよかったのではないか。
保健所の業務は多岐にわたる。療機関や医師会、歯科医師会との調整、食品衛生や感染症対策、医事・薬事衛生や精神・難病対策等の専門的な業務、自然災害や原因不明の健康危機管理などだが、都市部ではそれに市民の健康づくり、母子保健、生活習慣病対策、がん対策、狂犬病予防などが加わる。人口規模が20~30万人の中都市や70~380万規模の大都市の保健所が、今般のコロナ禍対策で悲鳴を上げたのは、ここが直撃されたからだ。
働く職員も医師、保健師、栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師、獣医師、薬剤師、精神保健福祉相談員、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、聴覚言語専門職など多種多様な専門職で、事務職と合わせると、医療の専門店よりデパートに近い組織だ。
もとより慢性的な予算不足に悩まされ、IT技術の導入、ネットワークの遅れなど時代のニーズに対応できず、人員不足や設置者の違いから連携が不足。ヘルスケアの分野では自助、共助、公助のバランスも明確でない、など変えるべき改革課題も少なくない。
市民サービスの専門機関としてリスク管理の拠点、保健福祉医療連携のセーフティネットの拠点として保健所は極めて重要性は高いが、しかし次々と新たな仕事を加えてきた関係で、専門性を要する専門店の役割すら見失われて来ているのが現状のようだ。
確かに、コロナ対応では混乱したが、だからと言って、いま述べた存立基盤をもつ保健所に対し、国が直接指揮命令できる仕組みに変えたからと言って、うまく行くかどうか。
緊急時には一時的に自治体の保健所を国の保健所と読み替え、厚労大臣が直接府県や政令市、中核市、特別区の保健所に指揮命令できる「国の出先機関化」するという便法もあろうが、しかし外見上はともかく、内実として緊急時とはいってもそれで動くかどうか。
ここはむしろ、病院と命令系統も一体化した「保健医療総合センター」に大胆に再編し、大都市自治体の主要機関とする改革に踏み込んだらどうか。府県はそれを補完する。災い転じて福となす、急がば回れ!“改革なき政治”を打破するチャンスとすべきでは。
#緊急事態 #コロナ対策
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