2022年3月17日木曜日

人口減少で急増する野生動物とどう向き合うか

国民生活の安心、安全を確保する。それは政府の基本的な役割だが、対外的な安全保障、危機管理の話とは別に、身近な野生動物による危機から私達の生活をどう守るか、新たな問題が起きている。国土の7割を山林で占める日本。そこに生息する野生動物が冬眠から醒め、民家や近くに出没する季節がきた。

この頃、クマが出た、狸が出た、シカが増えたという話をよく聞く。どうやら日本の山は、人口減少に伴い、野生動物の楽園になってしまったらしい。野生動物にとって「楽園」であっても、農家にとっては農作物を食い荒す極めて深刻で厄介な問題だ。ハイキングなど山歩きをする人にとっても脅威だ。コロナウイルス菌の感染も野生動物から人間へだった。 

少し前、岩手の沿岸部の山村で聞いた話。「ここ数年、異常にシカが増え、7頭ぐらいずつ群れを成し、この小さな山だけで3つの群れがいる。それが果物や野菜だけでなく今や水田に降りてきた稲の穂まで食い荒らすようになった。イノシシ、サルと合わせこの3大野生動物問題をどうするか、われわれは頭が痛い」と。この話題は北海道から鹿児島まで。

NHKTVのクローズアップ現代でもこの問題を取り上げていた。過疎、高齢化が進む鹿児島県さつま町の話。春の収穫期になると、数十頭のサルの群れが農作物を目当てに下りてくる。1頭の若いオスザルが大根を食べ始める。それでも人は誰も追い払いに来ない。

数分後、仲間も集まりすべての大根を食べてしまった。農家の担い手が減る中、さつま町では小規模な畑で糖度の高い農作物を作る人が少なくない。そこで農家の人の話。「畑も荒れ放題、田んぼも荒れ放題。もう収穫ができない、作っても全滅だもん」と。

都市部で暮らす一般の消費者にとっては「そんなもの」といった程度で聞き流す話かも知れないが、農家の立場、農家数の激減する日本の現状からそうはいかない。しかも人口減の著しい限界集落や中山間地ほど、野生動物の楽園化が進みこれまで出没しなかったクマも近隣まで我が物顔で現れ平気で農作物を餌として食い荒らすようになっている。

農作物被害について、被害金額は約158億円、被害面積は約48ha、被害量は約458tとされる(令和元年、農水省調べ)。被害額はシカ、イノシシ、サルの順。
 この先、日本列島は人口減に伴い野生動物の席捲する島に変貌していかないか。中国武漢に始まるコロナ禍ももともとコウモリが感染源とされる。人の住まなくなった沖縄の尖閣諸島がヤギの大群で占拠されているように。日本全体の7割は山林が占められるが、この先凄まじい勢いで野生の「楽園化」が進むと由々しき事態になる。

彼らの生態はあまり知られていないが、イノシシの例だと、1日のうちの3分の2を休息に費やし、3分の1(7~8時間)を殆ど餌探しに使うとされる。以前、人の多い時代は山の中で薪(たきぎ)をとるなど、多くの人が作業をしており、イノシシは山際に近づくと人に見つかり追いかけられるので、人里離れて生息していた。

しかし今は山を下りても人を見かけない。山際の竹林も放棄され真っ暗で恰好の隠れ家。竹林から顔を出しても人の気配すらなく、代わりに山際に捨てられた白菜、レタスなど冬野菜やかんきつ類、誰も収穫しない柿、栗、ビワ、クワなどの放任果樹が散在している。ふだん木の芽や虫を漁っている彼らに取って、この作物残渣は瑞々しく栄養価の高いおいしい食物と映るらしい。確かに人間がつくった野菜や果樹は美味しい。

養魚池の魚や養鶏場のニワトリもご馳走だ。野生動物はおそらくゴミを漁ることで味を覚えたのだろう。餌が十分にあれば、数は増える。

たちは知らず知らずのうちに野生動物に餌付けを行い、誘引し、隠れ場所まで提供している。耕作放棄地の増加などはその誘因の最たるものと言えよう。

しかし彼らに「楽園」でも、農家にとっては農作物を食い荒す敵。この折り合いをどうつけるかだ。山梨県北杜市では猟友会から鳥獣捕獲実施隊を選抜し2017年度でシカ約1400イノシシ140、サル230を捕獲するなど(2017年度)、被害の最小化に向け努力している。

岩手県宮古市でも捕獲計画を立て猟友会から選抜した鳥獣被害対策実施隊に捕獲を委嘱している。ただ捕獲隊員の高齢化に伴い人員確保も難しく先行きが不安という。他の罠、煙火、忌避剤、柵、ロープなどの方法も加えているが、それでは間に合わない。農水省も鳥獣対策室などが自治体の支援をしているが十分とは言えない。

コロナ感染が野生動物からというなら、これだけ急に増えている野生動物が国内で新たな感染源とならないか。従来からの動物愛護の発想だけでなく、野生動物から人間を守る、そうした視点から環境省などは本格的に取り組んでもらいたい。

いずれこの問題は、“隠れた人口減少の新たな面”として鳥獣保護と農家保護と私たちの生活安全の確保といった多面から議論を深める必要がある。

#野生動物 #過疎問題 #耕作放棄地 #コロナ感染

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